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■ぬるーく更新中! ケモノガタリ 前編
2010.06.06 Sunday
――――何時だかわからない時
真っ白な化粧の深い森…
1匹の獣が棲んでいた…。
***
お世辞にも綺麗とはいえないこの小屋にひどく不釣合いだ。
老婆はカップに、様々なハーブで作った自家製の茶と 平皿に温めたミルクを注ぐ。
「砂糖は二個だったね?」
尋ねる老婆に
「うん。ふたつ ちょうだい」
驚いた事に獣が口を利く。
「おばあちゃんのおちゃ、やっぱりへんなにおい」
しっかりと会話の出来る獣。
無論この国の全ての獣が口を利けるわけではない。
***
巡る感覚 おぼろげな追憶
粗末な作りの小屋。 変な臭いのする草がたくさん吊るされた壁。
大きな鍋からは湯気が立ち上り テーブルの上には色とりどりの綺麗な石。
全てが獣には初めて見るもので その意味は何もわからなかった。
***
森の奥の小さな穴倉で眠っていた小さな獣は
何も映らない。真っ暗だ。
寝ぼけ眼の獣もさすがに体勢を整える。
ゆっくり穴から出てきた刹那…
白魔の荒波が、森を襲った。
***
―――冷たい ――寒い ―痛い
ぼんやりとした感覚は はっきりとした意識に変わり
辺りが明るくなっている事に気がついた。
動こうとするも 体中に痛みが走り
足には…
体力は消耗され
故にこの感覚が何であるのかもさっぱりわからない。
ただ、憔悴と絶望感が波の様に次々と襲ってくる。
まだ獣は幼すぎたのだ。
ガラス球は、ゆっくりと閉じられていった。
***
ふんわりと嗅ぎ覚えのない匂い。 優しいような、懐かしいような。
微かに見える光。
眼を凝らせばそれは 銀色の毛並みなのだと解る。
自分より遥かに大きな生き物。
しかし恐ろしいと言う感情は起こらない。 匂いのせいだろうか。
銀色の生き物は大きな樹を動かしているらしい。 動かすたびに痛みは走るが
…助けて、くれているのだろうか…?
不意に 生き物の翡翠と
変な臭いがする…。 鼻がつんとするような むずむずするような…。
ぼんやりとした意識のまま ゆっくりと体を起こすと
大きな生き物が2匹、自分を覗き込んでいる。
体中が痛み、思うように動かない。
燃える様なルビーと穏やかな翡翠。
ふと嗅ぎ覚えのある柔らかな匂いに、獣の警戒が少し緩む。
「気がついたようだね」 紅い眼の老婆が言う。
青年の蒼い眼が揺れる。
「この威勢だと…大丈夫なんじゃないかねぇ」
言葉を解さない獣には、何が起こっているのかわからない。 ただ、両親以外の初めての大きな生き物に怯えていた。
しかし少し落ち着いてみると記憶が蘇る。 銀色の毛並み…翡翠の瞳…
あの時出遭った大きな生き物 …優しい匂い。
そっけない言い方の青年に老婆は眼を細める。
「変わらないねぇ…」 眉根を寄せる青年に構わず老婆は続ける。 「私が城にいたときも 傷ついた小鳥やら鼠やらをよく持ち込んでいたからねぇ。」
「いや、ある。」
「この獣を私に預けて、またどこかへ行くつもりなんだろう? 何も出来ない生き物の世話を焼いていられるほど、時代は優しくはなくなった。」
少し考え込むように眉根を寄せた青年は老婆に問う。
花の咲き乱れる城の庭園に
小さな花束。
「ありがとうね…これはお返しだよ。」 「?」
「その飾りにはね、強い力が封じ込まれているんだよ。」 「つよい、ちから?」
不思議そうに首を傾げる王子に 乳母はどこまでも優しく微笑むのだった。
それから幾度目かの秋… 赤い目の女が凶悪な力を持つ魔女であると言う噂が まことしやかに世間に広がり…
赤眼の乳母も例外無く 国を追われる事となったのであった。
王子の居ない間は代役が立てられていた為、国民の知るところではなかった。
***
「――お前のその耳飾」
「その飾りには強力な魔力を仕込んである。」
そんなものがこの世に存在するのかどうか―――。
―――かつて青年が少年だった頃
何も出来なかった自分。
魔術なんて、魔女なんて。 御伽噺のような事を
命こそは救えたものの
寂しい森に捨てられた赤眼の乳母。
「魔力」という単語が飛び出した事に
本当に魔法が存在しないとでも思っていたのかい?」
年老いているのにどこかドキリとさせられる。
「確かに、国のお偉いさんの考えているような 国自体を滅ぼすなんて強大な呪〈ノロ〉いの力は存在しない」
老婆が笑っている。 こんな顔をするときは、大体嫌な事を言うとき。
「今この国の季節が失われているのも、隣国の魔術師によるものさね。」
隣国では水面下での魔法の研究が盛んだったから…」
「季節を奪えるまでの強い魔力が生まれたんだねぇ」
しかしそれは国の気象研究師達が、大気の汚染に因る異常気象だと発表していた筈…。
「……何でもかんでも疑わないのも困りものなのかね…」
ふうっと溜め息を吐き、老婆は言う。
***
大きな円いテーブルに、色とりどりの石が並べられてゆく。
匂いからスープが煮込まれているのだとわかる。
得体の知れないどろりとした物体を作り出す老婆の姿は
並べた石の真ん中にそっと下ろす。
人間の食物を口にする事で[理]の再構築のきっかけにする。」
きょときょととうろたえる獣の口に強引に飲ませる。
老婆は受け取った飾りを、体の割に大きめの耳にそっと着けてやる。
老婆はゆっくりと口を開いた。
掌をそのまま獣に向ける。
部屋の蝋燭がふっと消え、部屋は真っ暗になった。
三つの呼吸と時折雪の落ちる音以外何も聞こえない。 その沈黙を破る老婆の声。
名前は相手を支配するのに必要でね。」
「支…はい…?」
「さぁシキ。もう喋られるだろう?」
二、三瞬いた獣は はくはくと口を動かし、やっと一言こう言った。
「……な んで…?」
そして
そして急に頭が…すっきりして…
今、ここにいる生き物達の言葉がわかる。
なんで?
でも私は『シキ』なんだ…。
「今日から私と暮らして私の手伝いをするんだよ。」
銀色の毛並みの『おうじ』。 赤い瞳のおばあちゃん。
あまりうまく喋れないけれど、 なぜか私はおばあちゃんたち『にんげん』の言葉が話せる。
真っ白な森の中からいろんな草をさがしてくる毎日。
『おうじ』は、あまり帰ってこない。 もとからおばあちゃんのお家には住んでいないらしい。
でも、たまに帰ってくると
袋にいっぱい入れてもってきてくれる。
でもそれよりも『おうじ』がいると、いいにおいがするからすき。
くすぐったいような、やさしいにおい。
「あ、おばあちゃん!」
薄鼠色のローブを纏った老婆が小屋の中に入ってくる。
はらはらと床に落ち、そして直ぐに溶けてなくなった。
たまにこうして獣に留守番をさせる事がある。
たくさんの金貨を持ち帰ってくるのだった。
言葉が通じるとわかると、ぽつぽつと自分のことを話すようになった。
この森に棲んでいた事 父親は生まれた時からいなかった事、母親がある日死んでしまった事…。
雪崩に巻き込まれ、王子がそこに居合わせたらしい。
老婆の薬剤作りの手伝いに大いに貢献していた。
薬草摘みの雑用にでもと思い引き取ったのだが… これまた喋ってみると素直で可愛らしく
「街にね。いつものお薬を売りに行ってたんだよ。」
いつの間にか、老婆にとって獣はかけがえのない存在になっていた。
王子に手を焼き忙しい毎日だったが
「ねえねえ まちってなぁに?」
ゆっくり考え事もさせてくれない獣に目を細める老婆。
自分の声に耳を傾ける獣を見つめながら
COMMENT
>まささん
読んでいただきありがとうございます♪ 物書きではないのでお見苦しい点もあったかと思いますが…^^; 【UC】管理人 2010/06/07 5:04 PM
夏を前に 優しそうな物語
ただ 後篇を読むのがちょっとつらくなりそうで こあい まさ 2010/06/06 7:11 PM
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