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ケモノガタリ 後編
 
※続き物です。

前編はこちら


↓から後編です♪




ケモノガタリ-後編-



***


獣と老婆の一日は、賑やかな朝食で始まる。

と言っても、獣のおしゃべりが殆どで

老婆はただ優しく相槌を打つだけだ。


木の実と甘いミルクが大好きな獣。

おいしいね、おばあちゃんと笑って言う獣が孫のように可愛くて…。


パンを齧りながら、ぽそりと老婆が漏らす。


「…あの子は、無事でいられるのかねぇ…」


「え、なぁに? おばあちゃん?」

 

ガラス玉をくるくると煌かせて小首を傾げる獣に

何でもないよと諭して老婆は先日耳にした変事の話を思い起こす。

 

近いうちに、隣国との本格的な戦争が起こるというのだ。


もう城下からは男達が徴兵に出され

いつもは賑わっている市もまばらだった。


薬だけはよく売れたものの…

 


ここから城下は馬を使っても丸1日かかる距離だ。

老婆の魔法でも往復で半日はかかってしまう。


だから戦火は余程の事がない限り

この何もない森には襲い掛かっては来ないだろう。

 

―――問題は王子だ。


どこを飛び回っているとも知れない王子でも

さすがに戦争ともなれば城に戻らざるを得ないだろう。


今は影武者が立てられている筈だが…。

 

バタン、と乱雑に扉が開かれる。


「よう、土産だぞー」


「おうじっ! おかえりなさい!」


ただいまシキと言って

飛びついてきた獣の頭を撫でている青年の姿を見やり

紅い瞳を歪ませる老婆。


「その鎧…」


あぁと頷き


「…もう知っているんだな」

とだけ呟く王子。

 

「これから城に戻る。」


その言葉が意味する事を、老婆は識っていた。

もうこの子はここには戻って来ないかも知れない。

 

ゆっくりと頭三つ分は背を越してしまった身体を抱き締め

行っておいでとぎこちなく微笑む事しか出来なかった。

 

間に挟まれ苦しそうにもがく獣だけが

それでも幸せそうに笑っていたのだった。

 

***

 

それから一週間後…

 


「お婆様っ!!」

 

勢いよく開け放たれた扉の音に驚いた獣が振り返ると

そこには見知った銀色の毛並みがあった。


否、匂いが少しだけ違う。


よく見れば、線も少し細く

声も似てはいるのだが高めである。

 

「…だぁれ?」

 

恐る恐る訊ねる獣に

見開かれる翡翠もあの青年と同じものだ。


息を整えながら、獣の耳にある飾りを確認し


「あなた『シキ』ね…まさか獣だったなんて…」


と小さな声で呟き

今度は獣のガラス玉が見開かれた。


「わたしを しってるの…?」


「ええ、王子から何度か…

それより、それよりお婆様は!?」

 

知っている名前が出て驚く獣の後ろで


シキ、どうしたと言いながら裏口から老婆が現れ、

ハッとした顔で青年によく似た少女を見る。


「…お前は…」

 

「お婆様!……ばあやっ…」

 

訳もわからず見上げる獣の頬に

温かな水がぽたりぽたりと落ちてくる。


王子によく似た瞳から落ちて来るそれは

ぽろぽろと止まらない。

 

抱き留めた老婆に背中を撫でられ

やがて啜り泣きながら

少女はポツリと告げた。

 

「王子が…敵国の手に落ちました…」

 

***

 


いつもの部屋

いつものお昼


ただ一つ


いつもと違う匂い。

 

コノヒトが来てから

何かが変わった。

 

これは誰?

なぜおうじに似ているの?


なぜ私を知っているの?

 

おうじが…

 

テキコクノテニオチマシタって

 

どういう意味…?

 


混乱した獣はキイキイと鳴き出した。


その声でようやく小屋の空気が動き出す。

 


「…そうかい…じゃあ戦争は…」


「明日、王と王子の処刑で終わるでしょう…」


再びほたほたと涙を落とし少女は誰ともなしに呟く。


「捉えられていた私を逃がして…

代わりに…王子…っ兄様が…」

 

にいさま、にいさまと繰り返す少女の向こうからおろおろと事を見守る獣にも

ようやく事情が飲み込めてきた。

 

このひとは


おうじのきょうだい

 

おうじが…

 

…ショケイってなんだろう?

 

でも…

 

 

すごく嫌な感じがする。

 


獣の胸は重い鎖に締め付けられたように

ぎゅうぎゅうと痛んだ。


暫くして何かを思いつき


きゅっと目を瞑り

そして老婆に向き直る。


「おばあちゃん…っ」


ゆっくりと力のない様子で獣に視線を落とす老婆に


「おうじのところに いきたいよおっ!」


獣が初めて大きな声で叫んだ。

 

***

 

周りの景色がすごい速さで駆け抜けてゆく。

獣を抱えた少女は、ただ前だけを見据えている。


一人と一匹の周囲には、ほんのりと紅い円が囲んでいる。


森の木々や動物達をすり抜けて


風の能力を借りた魔法の球は城に向けて真っ直ぐに飛んで行く。

 


獣が叫び、小屋の空気は再び氷ついた。


老婆がなんでもないよと言っても

少女が慌てて宥めても


獣の意志は変わらなかった。

 

一番大事なヒトの危機を、獣の勘が報せていたのだ。

 

拙い言葉で

必死に懇願する獣を見て


少女は一緒に城に戻る決意をした。


たとえ、自分も王族だとわかり処刑される事になったとしても

もう一度兄に逢いたい。


擦れ違ってばかりだった兄様…

全ての仕事を自分に押し付けて、自由気ままに飛び回っていた兄様。


そんな兄でも

心から愛していたからこそ


影武者としての務めを果していた。


その兄が、自分の窮地に現れ

もう直ぐ処刑されてしまう…。

 

影武者となったその日から

自分は王子の為に王子として死ぬ事を覚悟していたのに…。

 

小さな身体で大きな決意を変えない獣の姿に

逃げ出し、乳母に泣きつく事しか出来なかった自分を恥じた。


もう一度だけ…

兄様に逢って、そして兄様の為に死にたい。


そう胸に決め、老婆の魔法の力で城に向かう事になったのだ。

 

ふと腕に抱いた獣を見やると

ガラス玉は真っ直ぐと、遠く王子の捕らえられた広場の方向を見つめていた。

 

やがて、城下の外れに球は降り

ぱちんと爆ぜた。

 

足で地面を確かめた少女の腕からひらりと離れて着地する獣。


「あ、シキ…!」


呼び止める少女の声も聞かずに

嗅ぎ覚えのある匂いをたどって獣は一匹、走り出した。

 

 

***

 

ハァハァと息も切れ切れになりながら

それでも獣は走り続けた。


あの日


雪に埋もれて死にかけていた自分を助けてくれたのは

やはり他でもない王子だった。


そしてこの言葉も

今までの楽しい生活も


全ては王子のおかげで成り立っていたのだと


短い老婆の説明で獣は感じ取った。

 


(おうじは…


もうちかくにいる…!)

 

何が出来るわけでもない小さな獣だったが

ただあの匂いにもう一度抱かれたくて

 

がむしゃらに地面を蹴り続けた。

 


***

 

二つの簡素な処刑台が置かれた寂しい広場。

 

静かな其処には息を潜めた町人達と

物々しい敵国の兵達で犇きあっていた。

 

間もなくここで王と王子が処刑され

新しい時代が幕を開けるだろう。


人々がどう思おうが、時だけは残酷に過ぎ行くのだ。

 


そしてゆらりと


鎖に繋がれた王が


その後ろからは王子が引き摺られてきた。

 

 

処刑台に乗せられた頭の上には

きっと今にも凶暴な刃が降りてきて


自分は歴史から、いとも簡単に消されていくのだろう。

 

どんなに旅に出ても見つからなかった

自分を満たすもの


何もかも…


これで終わりか…

 

 

その時


ふっと自嘲気味に歪められた翡翠が


突然の眩しい光に

 

ぎゅっと閉じられた。

 

 

 

***

 


よたよたと満身創痍の獣が辿り着いた時


広場は妙な喧噪に包まれていた。

 

初めて見る大勢の人間に踏みつけられないように

こそこそと匂いを辿り

広場の真ん中に歩を進める。

 

「王子はどこだ!!?」

「光が…」

「魔術か!?」

 

煩い声に顔を顰めながら

処刑台の前に立ち止まる獣。

 

ここで終わっている。

 

王子の匂いが…。

 

並んだ巨大な台の片方には

王子によく似た銀髪の男が横たえられていた。


しかし、王子の姿はどこにもない。

 

不安な気持ちで締め付けられそうな胸を押さえ

辺りを見渡す獣の瞳に

 

見覚えのあるモノが映った。

 

よろめきながら近づいてみると…


獣の片耳にはめてある物と

対になった飾りが無造作に転がっていた。


慌てて其処に駆け寄ると

 

転がった飾りと獣の耳飾が再び真っ白な光に包まれ…

 

 

 

息を切らせた銀髪の少女が

やっと辿り着いたとき

 

 


広場には、王子の姿も獣の姿も

 

 

何も、無くなっていた…。

 

 


*********

 

 

「惜しかったですね」


色黒の男性は淡々とした口調で小さな少女にそう告げた。

 


ここはファーレン王国、王都ファンブルグ

 

突然召喚された少女は、訳もわからず試練を受けさせられ


たった今勇者ではなかったと伝えられたばかりだ。

 

不安げに揺れる金色の瞳には

手渡された「グリーンカード」がぼんやりと映っている。


特徴的な獣のような両耳には

白銀の耳飾りが輝いている。

 

自分が何者でこれまでどうしていたのかが

どうしても思い出せない。


ただ、シキという自分の名前だけはおぼろげだが思い出せた。

 

「召喚の際に記憶が一次的に無くなってしまう方もいらっしゃいます。

しかしそれでもファーレンはあなたを受け入れます!」


大丈夫ですよ、と白い歯を見せながら男は笑った。

意外といい人なのかも知れない…。

 

とにかく、勇者でなかった自分は元の世界に戻る事も出来ず

ここで暮らさなければならないらしい。


だが、戻るべき世界の事も全く思い出せない少女には

かえってありがたくもあった。


幸い職の窓口もあるらしい。

 


新しい人生の第一歩を踏み出そうと求人募集の掲示板を見上げる少女。

 

 

その後ろを、悠々とした足取りで

 

翡翠の瞳の青年が銀髪を揺らしながら通り過ぎて行った。

 

 


-おしまい-

何か書いてる。 12:54 comments(5)
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- 12:54 -
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COMMENT
>まささん

そうですねえ…

まぁ言ってしまうと影武者=妹も後に召喚されているようです(実際のモデルが居る為;)

ただそれが、物語のどのくらい後なのか
その間何が起こっていたのかは全くわかりませんし、今の所考えていませんw
(物語とコンチェがリアルタイム繋がりだとも限りませんからね)

その辺はまささんの中でワールド展開していただけるといいですかね(笑)

>BANXさん

ありがとうございます♪
ばーちゃんフラグ立っちゃいましたかww

なんでみんなばーちゃんそんなに気になってるんだろう(汗

ばーちゃん物語はさすがにないとは思いますが

意外と話作りが楽しかったので
コンチェバージョンの後日談的なのもつくってm…いやこんなこというとまた自分を追い込むからやめておこう…
【UC】管理人 2010/06/08 5:50 PM
なるほどなるほど、耳飾がキーでしたか・・・。
始まりが終わりに来る物語。
これは想像力に訴求しますねぇ!
とても暖かいお話でした〜。

しかし、一番気になるのは、婆様のその後ですよコレ!
それだけでもう一本書けるんじゃないかと思いますが如何でしょう?w
BANX 2010/06/07 11:37 PM
物語は広がってゆくから素敵なんですよね

創作者の意思に反したとしても
それぞれの人の中で…

ハッピーエンドが好きな私には
妹さんはおばあちゃんのもとで修行して

しっきーには昔のことはすっぱり忘れたまま
新しい(まあ王子様と二人が仲良くなってもOKですが)
仲間と やんちゃじゃなくって 楽しくやってくれれば
もうまんたい かな
まさ 2010/06/07 10:03 PM
>まささん

そうですね〜

あくまで志姫が主人公の物語だったので

気になる部分は残しつつ、描いていない部分は全てご想像にお任せするスタイルになってます♪

文章にする前に脳内で動画ができているので描写的な裏設定はありますけどね☆
【UC】管理人 2010/06/07 5:07 PM
出会えて また 仲間になれたのかな?

おばあちゃんは さみしいのかな?
まさ 2010/06/06 7:22 PM









うさ耳キュートのゲーム絵日記みたいな何か。

■画像全般において
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☆★但しモデル様に限り転載許可★☆

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